いったい何の数字だと思いますか?
2009年、脳卒中リハビリテーションで現在行われている練習の量、繰り返し回数を調べる研究がアメリカで行われました。その結果、脚の改善に努めた1回のリハビリのうち84%で歩行の練習が行われ、1回のリハビリにつき平均歩数は357回(95%CI = 296〜418回)でした。
この研究の背景には、
脳の神経回路を復旧させるための反復練習って実際何回やったら良いの?
という疑問があります。
脳神経回路の復旧能力(=脳の可塑性)を動物実験で調べるためには、毎日数百回の運動練習を繰り返す必要があると言われます。
しかし臨床現場では、脳の可塑性変化を誘発し、最適な歩行機能を促進するために必要なステップの数にほとんど注意を払っていないのが現状だったのです。
脊髄損傷に関する動物実験では、約1000〜2000ステップが毎日、30分間のトレッドミルで行われ、後肢の歩行を改善することが報告されています。
前述の報告は、動物実験1000~2000ステップに対し実際にリハビリ現場で行われている歩行量357ステップが少なすぎるのではないかと警笛を鳴らすものです。
つまり、36%という数字は脳が変化すると分かっている練習量に対する実際の達成率を示す値だったのです。
他にも、
運動学習が脳皮質をどのように変化させるかを調べる研究において、健康なラットおよびサルは腕の運動課題として400-600回の反復/運動介入を行う。同様に、脳卒中の動物実験おいて、サルは1日あたり600回のペレット検索作業を繰り返した結果が用いられている。
これらのことから、人体に対する運動学習の行動研究においても、神経に損傷のない対照被験者および脳卒中被験者は、特定の腕の運動課題を何百回も繰り返すことが腕に関係する運動皮質の変化には必要である。
1回のリハビリでは、練習量が足りていないという事実を突きつけられるとともに、自主トレーニングの重要性に気づかされます。
〈参考文献〉
脳卒中後のリハビリテーションで提供される練習量は、動物モデルに比べて小さい。現在リハビリ中に行われる特有課題の練習量は、脳卒中後の機能を促進するために必要な神経再編成を推進するのに十分ではない可能性がある。
Lang CE, Macdonald JR, Reisman DS, Boyd L, Jacobson Kimberley T, Schindler-Ivens SM, Hornby TG, Ross SA, Scheets PL. Observation of amounts of movement practice provided during stroke
rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil 90(10):1692-1698, 2009.
また、麻痺した手足は不便のために日常生活上の使用頻度が激減するものですが、
それを改善するのに参考になる数字は、、、420
1セッション420回以上の練習で上肢の自発的使用頻度が増加する。
Han CE, Arbib MA, Schwighofer N. Stroke rehabilitation reaches a threshold. PloS Comput Biol.2008 Aug 22;4(8):e1000133.